TEO Side Story TEO Side Story
last updated 1997/09/14

第122話(全130話)

立ちはだかる闇(1/3)




5 立ちはだかる闇 

 階段はずいぶんと長く地下へと伸びていた。幅の狭い石段で、マリカの肩幅とほぼ同じ幅し
かない。だからルーワンも体を少し斜めにして降りなければならなかったし、ワーターはもち
ろん、フィンフィンでさえ、狭い横幅にずいぶんと窮屈な思いを味わっていた。マスターはし
かし全然狭さを苦にしていない。気づいてみると、マリカとマスターはほぼ同じ肩幅だった。
そして階段は、ふたりの体の幅に合わせて作られていたように思えた。
 石段は地下深くまで降りたことを示すように地下水で湿りはじめた。苔がその表面を覆い、
足元が滑りやすくなる。パピロは本当に足を滑らせて転び、階段の下の果てへと「あらあああ
」の声と共に転がり落ちて行った。パピロのことだから、転んだふりをして真っ先に階段の下
に何があるのか見に行ったのだろう。そしてきっと、そこにある何かを見て、それが何である
にせよ、とにかく「すごいね」と感嘆の声を上げているに違いない。
「まだ先は長いの?」
 マリカが訊くと、ルーワンは肩をすくめた。
「案内するって言っておいて無責任だけど、ぼくもこの階段を降りるのははじめてなんだ。ど
こまで続いてるのかは知らない。ただ、下で星読みたちが待っているはずなんだ」
 ルーワンが言うと、下のほうからパピロの声が聞こえた。
「すごいや! こいつは驚きッ」
 その声の反響を分析して、ピートは言う。
「あと一五メートルほど下から発せられた声だね」
「メートルって何の単位?」とマリカ。
「あ。単位も違うのか。当然だよね。えっと石段の一段の高さから考えると、あと六○○○段
降りなきゃならないってこと」
 一段の高さは一段が二五センチだった。
 その二五センチを一五メートルぶん下った所で階段は終わり、そこから先には大広間が続い
ていた。完全に円形の広間で、外輪の中央に一回り小さな円が描かれ、それが黒く塗られてい
る。これは・・。
「すごいでしょ!」パピロが何故だかエヘンプイと胸を張りながら言った。「これってビッガ
イだよ。こんな地下深くにビッガイの絵が描いてあるんだよ!」
 まさしく、それはビッガイだった。大きなひとつの目。ピートはこのひとつの目が古代エジ
プトでは神の象徴として用いられていたことを知っている。月食を見上げていたときには気づ
かなかったけれど、こうやって様式化された絵として描かれてみると、それはピートの知って
いる「目」と同じだった。ラーの目、と古代エジプトでは呼ばれていた。それは真実を見通す
目と言われ、アメリカの一ドル札にもピラミッドの上に輝きながら鎮座している姿が描かれて
いる。そう言えば、マリカを死の底から回復させてくれたケダックの機械もピラミッドの形を
していた。エジプトのピラミッドがずっと、死者を甦らせる神秘の器だと思われてきたのと同
じように。ここテオでも、ビッガイは一種、神のように扱われている。一年に一度の再来を喜
び、祭りが行われ、生き物たちが歌い、人は踊り、そして地底深くに作られた大広間にデザイ
ン化されて描かれる。これはきっとテオの神なんだろう。
 ピートはそう思う。そして同じデザインをテラでも太古には神のように扱っていたことと重
ね合わせる。
 テオとテラとはどこか深い所でつながっている。
 それはいまやピートの中で確信となった。
 グリフォンやドラゴンなどという地球でも伝説として語り継がれている生き物たちのことも
ある。たとえば母さんが、インスピレーションという不思議を通してテオの風景を垣間見たよ
うに(母さんのいちばん新しい物語は、そんなふうにして書かれたのだろう。テオはもしかし
たら眠っている母さんの夢を通じてコンタクトを取ったのかもしれない。そうでなければ、真
の芸術家というのは、誰でも本当の美を求めることで、このテオへと通じるトンネルをくぐる
のかもしれない)太古の人々の心はテオと結び合っていたのかもしれない。たぶんそれはピュ
アだったから。純粋だったから。芸術家がそうであるように、母さんがそうであるように。
 ピートは大広間の中央へと進み出る。
 見回すと、天井は高くプラネタリウムみたいなドーム型だった。天使や女神の姿を描いたフ
レスコ画でもあれば、大聖堂のように壮麗だろう。けれどフレスコ画はなかった。代わりにあ
るのは天体の配置を記したのだろう、太陽や月を現す模様だった。円天井を二分するように一
本の川が描かれ(天の川をモチーフにしているのだろうか?)その左右に一つずつ太陽があり
、月があり、惑星が並んでいる。完全な対象になっているわけではないので、余計に奇妙な図
案に思えた。まるで別々の宇宙が隣り合っているように見える。あるいは背中合わせにくっつ
いているように見える。
 ピートは「あ」と息を飲む。
 あの中央の川は、天の川ではなく、ぼくが落ちた、あの川なのじゃないだろうか。橋脚から
落ちたぼくを受け止めた川。テオへと運び込んだ川。
 テラとテオとの境界に流れる川、なのじゃないだろうか。
 そう思って見ると、川の左側にある星の配置は、教科書の挿し絵で見たことのあるものとそ
っくりだ。太陽があり、九つの惑星があり、三番目の惑星には衛星がひとつくっついている。
あれが、テラ、ではないだろうか? ピートは川の右側に目をやってみる。太陽から三番目の
惑星に自然と目が吸い寄せられた。その惑星には、ドーナツのようにも見える衛星がくっつい
ている。もちろんそれは中央に黒い影を持った、一年に一度の月、ビッガイを現しているのだ
。だとすれば、
 あれが・・テオ。
 川の右側の第三惑星も、左側の第三惑星も、ともに青く塗られている。青い星なのだろう。
海の多い、それは海と森の惑星なんだ。

(つづく)




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